研究紹介

ポストリチウムイオン電池としてのナトリウムイオン電池に資するガラスおよびガラスセラミックスの創製

LiFePO4リチウムイオン電池正極活物質

当研究室では次世代の鉄リン酸塩系リチウム二次電池正極材料をガラス結晶化法という新規な手法で開発することに成功しました。リチウム、酸化鉄(III)、リン酸の酸化物混合粉を大気開放下1200˚C前後で溶融、ガラス化した後、ガラス粉末をグラファイトやグルコースなどと混ぜ、500~800˚Cで熱処理(結晶化)することによってリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を合成しました。従来法に比べて安価な酸化鉄(III)が原料として使え、固相法で問題となるリチウムイオンの揮発の心配も無く、単純で時間のかからない(溶融に数分、還元結晶化に数十分)プロセスであるため、大幅なコストダウンが期待されます。また、ガラスの結晶化というプロセスと、本研究室が独自に開発したレーザー等の光誘起結晶化技術を活かして、薄膜状やマイクロ電池への展開など、粉末形状を用いない新構造のリチウムイオン二次電池の開発が期待されます。これらの成果は近年ナトリウムイオン電池用材料へ展開しています。

ナトリウムイオン電池正極活物質

上述のリン酸鉄リチウムの技術と全く同じ合成法で、2012年にNa2FeP2O7結晶を見出しました。このNa2FeP2O7はナトリウムイオン電池の正極活物質として機能し、3V, 89mAh/g (理論容量97mAh/g)を示し、さらには100サイクルまでの繰り返しで、93〜96%の容量維持率を示します。全くレアメタルに依存しない安価な二次電池への実現に有望な材料候補の1つと期待されます。


酸化物ガラスセラミックスによる全固体ナトリウムイオン電池の開発

最近、日本電気硝子(株)と当研究グループは、室温下で動作する全固体ナトリウムイオン電池の試作に成功しました。 
熱暴走に対して脆弱で、原材料価格の高騰が問題となりつつあるリチウムイオン電池の代替品としてナトリウムイオン電池が期待されています。我々は当初から実用の観点から酸化物の全固体化が理想的であると考え、酸化物ガラスの粘性流動を製造プロセスへ活用した全固体電池を提案し、以下のような特徴を明らかにしています。

  • 電解質および結晶化ガラス正極はいずれもレアメタルフリーを達成できます。
  • 550℃(比較的低い温度)で同時焼成することで容易に接合することができます。
  • 試作した全固体電池は、論文投稿時点で600回を超える充放電サイクルでテストしてもなお、接合界面の剥離がなく、安定動作しています。
  • 9Vという過酷な過充電(リチウムイオンバッテリーの火災の原因の1つ)に対して極めて高い安定性を有します。

レーザーによるガラスの位置選択的なプロセスとデバイスへの展開

走査方向に特異な結晶成長を示す一次元構造

ガラスは高温で熱処理を施すと結晶に変化します。サマリウム,ディスプロシウム、遷移元素酸化物を含むガラスがYAGレーザの光を吸収し効率よく熱に変換することを利用して、ガラスの表面を位置選択的に結晶に変えることができます。レーザーの集光位置を連続的に走査するとライン状の配向結晶が析出します。結晶の持つ機能性に応じて、ガラス基板状に光非線形性、強誘電性、圧電性、電気伝導性を有するマイクロパターンを作り込むことが可能となります。この手法により、光の進む方向を制御することができる分岐構造(写真左)や光の強度を変化させることができる微小な干渉計構造(写真右)を形成することができ、光を光で制御する次世代の導波路型光デバイス(光スイッチ・光変調等)へ応用することができます。

更に複雑なパターン形成への挑戦 二次元〜三次元構造

結晶の形態は、組成、レーザーの出力、照射時間(走査速度)に依存します。一旦描いた一次元結晶パターンを種結晶として、加熱領域が重なるように連続的に照射位置を変化させることで、二次元的なパターンを描くことができます。写真はガラス表面に作製したLiNbO3結晶の二次元パターンです。最初に作製した配向をそのまま維持して、面内に配向を有する非常に珍しい構造体が得られます。
さらにはガラス内部へも同様に描くことができます。導波路にとどまらず、ガラス内部へ光学結晶からなるプリズム等の微小光素子を埋め込むことができます。


マテリアルズロボティクスを活用したガラスセラミックスの合成と評価

 当研究室では上記のレーザープロセスによるガラスの局所加熱を利用した結晶化や微細加工に取り組んできました。近年では汎用性の高いレーザー機器の技術開発や3Dプリンティング技術が進んできており、ガラスおよびセラミックスの研究にロボティクス技術を応用展開し、新規材料の合成や、異種材料との界面形成などに活用しようと取り組んでいます。下図はとあるセラミックスへレーザー照射条件を断続的に変化させた外観です。ガラス化、結晶化の有無、表面の形態、物性を1チップで多点測定することができるようになり、合成と評価のスループットが飛躍的に向上します。


高機能結晶化ガラスの開発

非線形光学特性を持つ結晶化ガラス

特定の組成のガラスを基板を熱処理することで左の写真に示すように、基板表面に配向結晶層を設けた構造(表面結晶化ガラス)を作製することができます。右の写真は透明Ba2TiGe2O8(BTG)結晶化ガラス試料に右側からYAGレーザーを入射しています。このレーザー光は近赤外線(波長1064 nm)であり目で見ることはできませんが、結晶化ガラスを通過するとBTG結晶のもつ非線形性により半分の波長であるグリーン光へと変換されます。この波長変換の効率を表す二次非線形光学定数は、ガラスを母材とした材料では世界最高の性能であることが判明しています。


ケミカルプロセスによるガラスの形態制御技術

ガラスの粗密制御とエッチングによる加工

写真は当研究室で開発を進めている強誘電体ナノ結晶からなるファイバープローブやガラス基板上に形成したマイクロ凹溝構造体です。大型のディスプレイパネルから光ファイバーまで、大小問わず、どんな形にも自由に加工することができることはガラス材料の最大の特徴であります。近年注目されているナノフォトニクスやMEMS分野に高機能で安価な材料・加工技術の基礎研究を進めています。